日本のうどんの本場・讃岐うどんを楽しめる店が釜山にもある。広安里に2010年夏オープンした「武田家」だ。日本で修行されたご主人が作る手打ちうどんは、まさに本場そのもののコシの強さとのどごしの滑らかさが自慢だ。

店名の「武田家」は、武田信玄が好きだという店のご主人が名付けたのだそう。メニューや厨房カウンターにかけられているのれんには、「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」という武田信玄の言葉が日本語で書かれている。“どれだけ城を堅固にしても、人の心が離れてしまったら世を治めることはできない。情けは人をつなぎとめ、結果として国を栄えさせるが、仇を増やせば国は滅びる”という意味が、韓国語でも書かれている。
「武田家」のご主人ミン・ヒョンテクさんは、もともとは製薬会社に勤めていらしたのだそう。よく行っていたソウルの日本式うどん店のご主人に誘われて、自分もうどん屋を始めてみようと決意、会社を辞めてうどん修行のため日本に単身渡ったのだという。当初は日本語があまりできず、そのために苦労もされたそうだ。3年間うどんの本場、香川県は高松の「小懸屋(おがたや)」という店で修行されたとのこと。現在「武田家」で出す麺は、勿論ミンさんの手打ち麺。店内にワイン冷蔵庫を置いてうどんの生地を寝かせて熟成させているのだそうだ。
3年間の修行期間でミンさんは、日本人が実に勤勉に働くことに感銘したそうだ。職場は仕事をする場所だという意識が徹底していると。勿論ミンさんご自身も熱心に取り組まれ、厨房の中で使われる日本語はすっかり覚えたそうだ。
ミンさんはここ釜山で讃岐うどんの店を出すにあたり、日本人の味覚と韓国人の味覚の違いに苦労されたと言う。日本人はぐらぐら長時間煮込んでダシをとるのではなく、どちらかというとすっきり、さっぱりした味を好む。しかし韓国人は長時間煮出した“深い味”のダシを好むので、その味の好みの違いをどのように折り合わせるか、試行錯誤されたそうだ。
また韓国人には日本のうどんのスープは、関西のうどんでさえ非常に塩辛く感じるのだそうだ。まるで醤油をそのまま飲んでいるかのように。唐辛子の辛さにはめっぽう強い韓国人だが、塩辛さに対しては日本人より敏感なようだ。そのため韓国人の口に合うように、スープの味も改良したのだそう。そのためスープは日本人には若干薄く感じる。メニューは天ぷらうどん・ざるうどん・釜揚げうどんなどがあるが、私のおすすめはぶっかけうどん。コシの強い麺の味わいを堪能でき、ツユもおいしい。ミンさん曰く、大根おろしやネギ・天かすの他におろし生姜を添えるのが日本式だが、韓国人はあまり生姜を好まないのでわざと使っていないのだそう。
